Kato Masayuki and Miyamoto Tsuneyuki on Demon's Ring and Falcom's occult direction
日本ファルコムが狙う思考型オカルトソフトの世界戦略
Demon’s Ring(悪魔の指輪)で業界の熱い視線を浴びる日本ファルコム。その躍進の秘密は、ばつ群のチームプレイにあったのだ。
プロフィール
昭和56年3月、日本ファルコム株式会社を立川市に設立、資本金1000万円でスタート。設立当初、国内ではコンピュータ導入時の業務分析、調査、計画立案の受託業務を手掛け、国外では、JICA(国際協力事業団)プロジェクト(タイ国北部地方道整備計画)に参加する。同56年7月、Appleを中心としたパソコンショップをオープン。米アップル社公認代理店。昭和57年より、パッケージソフトの販売を開始。ビジネスソフトは個人向けの手軽で実用的なものを、またゲームは思考型のアドベンチャー、ロールプレイングを指向している。
宮本 恒之 神霊現象研究担当
「私はある修道院にいたんですよ。魔術をやっているところを院長に見つかるまでは。ハッハッハッ」と冗談を飛ばす宮本氏は、プログラマーであると同時にオカルト関係を担当している。ソフト制作にあたっての悪魔祓いから、マニュアル執筆まで、オカルトにまつわる全ての儀式が彼の手により行われている。彼によれば、”Demon’s Ring”にはある原理が封じ込められているという。さて、何人の読者がこの封印を解くことができるか。
松島 孝晴 機械語•DOS関係担当
2年前にPC-6001を購入し、8801、9801とNECファミリーの機械語を総ナメにしている。「夜、ふとんに入り目を閉じる。かすかな眠りに入る。突如、アイデアの断片が浮かび、それがふくらみを増していった。具体的なコーディングに入っていく、寝苦しい夜が明けた。決して形を変えることのない骨太なプログラムが、私の頭のなかに残った。”Demon’s Ring”は私の夢の中から生まれたのです」。要するに、機械語の詩人である。
井上 忠信 & 田口 進
「パソコンを通じてユーザーとどこまで対話できるか、限界まで挑戦してみたいよね」と、愛用のパイプをくゆらせながら井上忠信氏(プログラマー・グラフィックデザイン兼任)が語れば、
「今度は僕も、時代考証のしっかりした本格歴史小説のようなアドベンチャーを作りたいと思っているんですよ」と田口進氏(プログラマー、NEC担当)が答える。
遠藤 幸一 シナリオ担当(社外スタッフ)
PDP-11で、UNIXをほぼ2年間使用して、その使い易さに感激。Mac(マック)でUNIXを走らせられないかと夢みている。ショップの常連で、そのゲーム狂ぶりを社長が見染めて、スタッフ参加を要請された。好きなゲームはご存知”ウィザードリィ”。”ウルティマ”はⅠ、Ⅱ、Ⅲの全てを遊び尽くしてしまった。”Demon’s Ring”の原作者。本業はSE。
加藤 正幸 代表取締役
超大型機のSEから始まってパソコンまで、コンピュータ関係の仕事に携わって16年がたつ。時代の状況をキャッチするのが速い”さきがけ”派。少年の好奇心と情熱を持っていると自負する。特技はタイ語会話。好きなゲームは”サボタージュ”。
ソフトハウスはいま、オカルトしているーー。東京都立川市、中央線で都心から1時間ちょっと。国鉄立川駅から歩いて5分で、めざす日本ファルコム(株)の本社兼ショップに着いた。
じゅうたん敷きの床。心地良いBGMが流れている明るい店内。
”欧州絵画調電子冒険小説”と銘打った高速描画(平均1.5秒)のアドベンチャー”Demon’s Ring”を発売したこの会社について、取材前に編集部で聞かされていたことは、古くからAppleショップで、米アップル本社公認代理店の名簿に名を連らねていること、社長のApple歴が古く現在では新製品マッキントッシュのユーザーであること、スタッフ全員がゲームフリークであることなどである。
そして、人から教えられるまでもなくよく知っていたのは、”ホラーハウス”、”狂気の館”、”ぱのらま島”など、オカルト(三省堂版新明解国語辞典によれば、”超自然的事象”。いわゆる心霊現象、または超常現象。原義は”神秘的な”)方面に明るいソフトを数多く出しているソフトハウスだということだ。
”Demon’s Ring”もまた、親の仇魔王サローンを倒すためのエレミア国の王子デュムリンの冒険譚であり、中身の仕掛けも実にオカルトがかっている。
当社では、スタッフになるべくいい仕事をしてもらうように、環境には気をつけているんですよ。ショップを兼ねているために、昼は接客業務がある。スタッフが落ち着いてソフト開発に取り組むのは、どうしても夜8時以降の帰宅後になりがち。深夜までキーを叩いてそれから翌日の仕事。この繰り返しは相当ハードです。だから、各自が自己管理を積極的におこなえば、あとは比較的自由にくつろいでもらえるよう心掛けているわけです。
社長の加藤正幸氏が説明する。がっしりとした体つき、ていねいな対応、明らかに今まで会ってきたソフトハウスのリーダーと、タイプが異なる。加藤社長は、冷蔵庫からキリリと冷えたビールを運んできて、グラフについでくれた。
たとえば冷蔵庫のなかには、来客に勧めたり、またスタッフがリラックスするときのためのアルコール飲料ーーバドワイザー、ハイネケンやギネスなどの輸入ビールが並べてあるんですよ。ビールとコーヒーは欠かさないようにしているんです。
なんとなく感じる、生活のゆとり。
僕はコンピュータの仕事、長いんです。真空管を使わないコンピュータが、ソリッドステート(半導体)コンピュータといって鳴り物入りで登場した頃からソフト組んでますからね。マシンもいろいろ触れましたよ。日電のACOS600/800/100、IBM360/370など。またTSSは日本でもかなり草分けの時代からソフトを組んでいた。といっても、汎用機の世界だから、皆さんにはあまり関係ないか。ハッハッハッ。
と豪快に笑い飛ばす。
こうしてパソコン分野で仕事をしていると、最近のマイコン世代の人たちの思考が、私ら昔ながらの情報処理の教育を受けた人間たちのものとまったく違うことがよくわかる。だから、やっていてシンドイこともある。でもね、決して昔の考え方がいいとは思わないんですよ、私は。これが時代の流れだし、逆にマイコン世代のシステムにどっとのめり込むような思考に、アーティスト精神を感じることも多いですよ。
と、ソフトウェアに関する自分の考えをはっきり話す。現在のマイコンについて、今後のソフトについて、ゲームについて。
話していると、頭の回転の早さ、素早い対応に、いわばソフト開発の現場を長年、歩いてきたキャリアを感じるのだ。加藤社長がAppleに魅せられたのは、タイで仕事をしていた8年前、現地ホテルで開催されていたマイコンショーのデモ展示を見て以来。現代への対応も、かなり早い人なのだろう。
しかし、今回の取材の成果は、なんといっても彼と出会えたことに尽きる。彼とは、同社の製品にそこはかとない妖気を漂わせている張本人宮本恒之氏(20歳、こうして法衣を着させるとかなり美少年でしょ?)のことである。
加藤社長でさえ、
1年以上、彼と一緒に仕事をしているのだが、いったい何を考えているのか、いまだにさっぱりわからない。
と、首をかしげる思考体系の持ち主だ。
僕の場合、神秘体験というか、ふつうの科学で解析できないような呪われた体験をしたのが小学生の頃なんです。どのへんが呪われていたのかというと、実は女運が全然なかった。こっちが真剣になるほど、向こうが逃げてしまう(爆笑)。だからオカルトは、何て言うのか、人間の原点だと思っています。
女運以外では、つまり”人が知らない知識”を欲しがる子供だったんだなあ。心理学の、今から考えるとほとんど馬鹿馬鹿しくなるような入門書を読み漁ったんですね。中学生になると今度は”化学”が異常に好きになった。たとえば、塩酸とカセイソーダから塩ができるような”2つの物質を混ぜると反応して違う物質ができる神秘性”に引かれた。つまり錬金術ですよ。凝り性のほうだから、学校は工業化学の方向に進んだのですが、あまりに単純な理論と複雑な計算の世界にイヤ気がさしましてね。ロマンがないんだなあ。えっ、最近の愛読書ですか?いろいろあるんですが、A・E・パウエルの『神智学大要』、あれは僕にとっての聖書のようなもので、毎晩愛読しています。どのへんが良いのかって?
そりゃ、えーと、人間の根底は肉体ではないと、肉体の脳で思考するのではなくて、”魂”が感じるのだという思想がすばらしいんです。ある意味で世の中を変えたいんですね、僕は。コンピュータ・プログラムは新しい言語だと思うんです。だから、その、言語というか記号を使って世間をアッと驚かせたい。そこで考えているのは西洋オカルティズムの基盤になっているカバラ(ユダヤ神秘主義の総称)と、東洋オカルティズム(インドのハタ・ヨガなど)をとり入れた”神智学協会”的な2本の流れを、コンピュータ・プログラムで一本化したい。どちらも根底はみな同じですからね。つまり、人間の魂の進化を起こしたいと思うんです。
宮本青年は、瞳を輝かせる。
うちのお客さんで、お寺の住職のかたがいらっしゃいましてね。あまりこっち(オカルト)の方向に走らないほうがいい、と忠告してくれたんですよ。
社長が、釘をさす。
そんな、社長、まだまだ生ぬるいですよ。
(?)と、宮本青年。
ところで、日本ファルコムはなぜ、オカルトものに力を入れるのだろうか?実は、ここに加藤社長独特の”時代の読み”があるのだ。
私はオカルトのことなど、さっぱりわからないクチなんですが、どうせソフトを作るならば”世界に通用するものを”という大志があるんです。Apple Ⅱで大ヒットした思考型ゲーム、つまりアドベンチャー、ロールプレイングタイプのものには、ファンタジー、神話、オカルトをテーマにしたものが多い。そこで、じっくりと腰を入れてオカルトものを追求しているわけです。
そう言って、加藤社長は、おいしそうにハイネケン・ビールを飲み干した。
実に明解な論理である。
日本ファルコムは、オカルトソフトで世界市場の征覇を狙っていたのだ。
うちのスタッフは個性派ぞろいなんですが、逆に言うとスター・プレイヤーがいないんです。それよりも、各人の能力、特技を生かしてそれを一本に組み上げていく。つまりチームプレイなんです。天才マイコン少年1人よりも、分業制によって多人数でコツコツ作っていくほうが、スケールの大きなものができるでしょう?これからはそういう時代だし、私は長年、システム開発の現場にいた経験を活かしてスタッフひとりひとりとじっくり膝を交えて話し合い、一緒に悩んで超大作を作っていきたいと思っているんです。
つまり、日本ファルコムはいろいろな役割(CLASS:職業)にあるメンバーが協力して冒険していくダンジョン&ドラゴンのプレイヤー・パーティ(集団)に似ているのだろうか。
最後に、日本ファルコムは”Demon’s Ring”を上回る内容と描画速度の大作アドベンチャー制作を始めた。開発予定期間1年のこの作品に期待したい。
取材後記/ユニークなソフトの裏には、それ以上にユニークな人物がいるものだと、再確認。個人の力量を最大限に引っぱり出す社長のプロデュース力は、他社のプロデューサーにとって脅威かもしれない。一説にはオカルト知識が未整理だという鋭い指摘もあるが、これも時間が解決してくれそうだ。