A page in the history of Sorcerian's development: balancing game mechanics and scenario design

 私たちが新しい冒険に出かけ胸ときめかせ、恐ろしいドラゴンに震え上がる時。彼らは会心の笑いを浮かべ、共にお互いの健闘を称え合うのだろう。

 私は幸運にも、数々のヒット作を生み出してきたファルコムの開発スタッフたちの生の姿をかいま見ることができた。これは、『ソーサリアン』が生まれるまでのほんの1コマにしか過ぎない(なんちゃってね)


「えぇ?これHP.MAXの3分の1しか回復しないんですか?」
「う〜ん、それじゃきびしいかなぁ」
「きびしい、きびしい。だってハーブだって、そんなにたくさん見つけられないし」
「でも、薬屋でも売ってるしさぁ‥‥」
「いやいや、やっぱりHPのMAXまで回復してくれなくちゃ!」

 HEALの効用について木屋さんにゴネたのは、最初その効果が少なすぎたからだ。ゲームというのはバランスが肝心である、というのはわかる。しかし、あまりにも過酷であるとゲーマーに余分なストレスを感じさせてしまう。このへんの加減が一番難しいのだろう。ヒットしているゲームはすべて、このバランスがうまくいっていると思う。

「そうそう、難しくするのも簡単にするのも簡単なんだけどね、ちょうどいい感じのバランスにするのが難しいんだよね、なぁ五十嵐」

 木屋さんが、何度となくシナリオ担当の五十嵐君に、そういっては適度なヒントを入れさせていたっけ。その微妙なバランスを保ちつつ素晴らしくおもしろいシナリオが完成する。そのシナリオで活躍する恐ろしいモンスターをデザインし、それに命を吹きこむ。もちろん、雰囲気を盛り上げる音楽が加わり‥‥。

 私がファルコムへ再度訪ねることになったのは10月も終わり近く。立川の街がすっかり晩秋に染まっている季節だった。今年はやたらファルコムと縁がある。夏には、通称ドラファミ(『ドラゴンスレイヤーⅣ』)のマニュアルと本を書いた私が、今度は『ソーサリアン』のマニュアルの一部を書くことになったのだ。

 私が受けもったのは、操作説明の部分。書いているその横で仕様が変わっていく、という心臓によくない状況だった。しかし、きびしいことはきびしいのだけど、私にとってとてもやりがいのある、いい仕事だったといえる。

 というのも、ファルコムの開発スタッフの人たちがヒーヒーいいながらも本当に自分たちの作品に対し愛情をもって頑張っていたからだ。

 私は、知り合いから借りたラップトップ型コンピュータをかつぎ、立川のホテルとファルコムを往復した。そうするうちに、いつのまにか自分自身ファルコムの人間になってしまったような錯覚を覚え始めた。

 木屋さんを始めスタッフの人たちはみんな親切である。忙しくってしかたないであろうに、私の質問にも快く答えてくれたし、いい話相手にもなってくれた。私の右隣りでは山根さんが1ドット1ドットタイリングし、あの美しいタイトルを木屋さんの攻撃に耐えながらも作っていた。左隣りでは、五十嵐さんがメッセージを入力していた。

 開発の現場にいながらマニュアルを書くという経験はいままで何度もあったが、今回ほど新鮮な感動はなかった。

 たとえば、私が操作を覚えるためテストプレイをする。ゲーム好きの私のこと、当然たちまち仕事を忘れて必死に解こうとしてしまう。意地の悪い?シナリオに四苦八苦しているのを横目で見つつニヤニヤしているのは五十嵐君。本当に可愛らしい男の子で、どこにこんなイヤラシイゲームを作る才能が隠されているんだろう、と思う。シナリオを書いた本人が横にいると、ついついヒントを聞いてしまうのだが、そんなときも、

「上の方にも同じようなものがありませんでしたかぁ?」
「えぇ?あったっけ、そんなの。どこ?」
「さぁねぇ。ふっふっふ」
ときびしいヒントしかくれない。

 木屋さんの「明るい嘆き」もよく聞いた。丸1日つぶして作ったモンスターには目も止めないくせに、ものの3分で作ったような奴が大ウケしてしまう、というのだ。確かに、「王様の杖」に登場するスケルトンが地面からボコボコと現れたときなど、びっくりしたもの。あれは、本当に3分でできたんだそうだ。一番おかしかったのが、「呪われたオアシス」に登場するデカキャラ。砂漠王ルワンがドラゴンの頭の上に舞い降り、また飛翔し、ドラゴンを操る、というシーンらしいのだが、私にはどうしても「鞠をポンポンと投げては受け止めるオットセイの曲芸」にしか見えなかった。その上、そのドラゴンに火を吹かせるのが、またひと苦労。火を吹きすぎてドラゴンの首がなくなったり、火があらぬ方向にいってしまったり。もちろん、完成バージョンでは恐ろしくも神秘的な雰囲気に仕上がってはいたんだけどね。

 サンプルバージョンをテストプレイし、バグを見つけたり、操作上不自然な部分がないかを考える役を担当しているひとりに、「たっちゃん」という男の子がいた(男の子なんていうと失礼かもしれないけれど)。彼が、「これこれ、ぼく好きなんですよね。音楽もきれいだし、シナリオもおもしろいでしょ」と本当にうれしそうに話して聞かせてくれるさまを見て、妙に感動してしまった。

 すったもんだしたマニュアルもやっと完成に近づき、今度はコンプティークにこの原稿を書くことになった私だけれど。1ゲームファンとしても、このソーサリアン、自分自身が作りあげたキャラクターでパーティを組み、また冒険に挑戦したいと思っている。

「ねぇ、HEALの話だけどさあ。HPの70%まで回復するってことで、いいかな?」

 私がすっかり忘れてしまった頃に、ニコニコしながら木屋さんがいってくれた。皆さんもHEALに命を救われることが多々あるでしょう。そんなとき、私のゴネがあったことを忘れないでね。

(レポーター:ファズボール深沢)

裏マニ製作班追記:当初「天の神々たち」は、経験値1000Pのおいしいシナリオだった。狂喜した我々は何度も往復して、セコくレベルアップ。ところがその翌日、再び冒険に行くと‥‥ガーン、たったの250P!!遠くで木屋さんの笑い声が聞こえた。